「ラッキードッグ1」ショートストーリー
『BitterSweet Symposium』
2015.04.01~

#1#2#3#4#5#6#7#8#9#10

◇ Ivan awake ◇

……身体が、痛い。なんか痛え……クソッ、人が、この……!
「……ん……が……。……か……く、かッ、んが……!」
しかも、なんかうるせえ!
人が…………てる、ときにどこのクソッタレだ、なんか――さっきから、身体のどっかが痛いしシビレるし、しかも。さっきからずっと、なんか耳障りな音がしていて……。
「……が……ふ……ファっ……」
クソが、ファック! うるせえ、イビキがうるさくて寝られねえ、目が覚めちまう!
クソ……!! どこのタコだ、イビキなんぞ――
――あれ。これ、俺だ。
「う、あ……っ? あ……」
――唐突に、目が覚めた。
「あ……。あ……あれ……」
自分のイビキで、目が覚めた。いや、自分のイビキで――自分が寝てしまっていること、寝ている場合じゃないことを思い出して、ハッとして目が覚めた。
……そうだ、寝てる場合じゃない。
……そう、えーっと……。俺は、たしか……。
イヴァンは、目は覚めたが、まだアイドリングがそろってない感じの自分の頭、意識の中でぼんやりと、考える。
……俺は、そう。
あのバカどもと宴会して……。えっと、あー。まだ酒残ってるな、クソ。調子こいて飲み過ぎたか……。あいつらしかいなかったし、タダ酒みてーなもんだからって、やり過ぎた、ファック。
……えーと。あのバカども……。あー、ここは、そうだ……やばい。
……ここはあの因業爺の店じゃねーか、下手にこんなン、こんなふうにグダグダなの見つかったら何言われるかわからねえ、シャキッとしねえと。
……確かあのジジイ、ヴェスプッチ。どこだったか、ああそうだ、フィラデルフィアかなんかの知り合いがポルシェ買ったんで、そいつと勝負しに行ってるんだった。
……だからあのジジイは明日の昼までは戻らねえ。てか、いい歳こいて車で勝負とかほんと馬鹿じゃねーの。相手は確かメルセデスの……いや違う、同じドイツのBMW……新型の328だったか。あのジジイの仲間だからどうせ同じくらいのホームラン級の馬鹿だ。
……メルセデスは最高だがほかのドイツ車はどんなもんかな……え~と、ほら、ドイツじゃねえけどイスパノ・スイザのくるm…………
「……が……。ん、が……っ……!」
……やべえ。
……二度寝しかけた、ファック。……まだ酔っ払ってるせいか、どーでもいいことが頭の中グルグルして……そんでまた、眠くなる。
……起きねえと。てか、口の中気持ちワルイ、頭……いや、なんか身体が痛え!
……その前に、えっと……。
……俺は、何してたんだっけな。なんで、こんなところで寝て――
「……。む……ん…………。――……が!! ……ジャン!?」
その名前を、思い出し――
「ジャン、あいつ……、ッ、うわ!?」
一瞬で、目が覚めた。
同時に、ガタッと身体が動いて――右足の膝を、同時に左腕の肘を、何か固いものにおもいっきりぶつけてしまう。その激痛と、神経が遮断されるようなシビレが、まだ半分寝ていたイヴァン・フィオーレを完全に覚醒させる。
「ぐが! が、がぁあ……ん、ぎ……! ぬ、お……?」
気づくと――自分の身体が、何故か重力に対してひどく不安定で、激痛に悶えた身体が、三半規管が転落の危険を訴えていて、イヴァンはガッと目を見開く。
「……ん、な……? なん、だぁ……」
落っこちる、そう思っていたのは……自分の体が、斜めになっていたから――自分が、どこかの階段の中程で、段差に引っかかるようにして腰を下ろし、そのままの姿勢で寝ていたからだった。
イヴァンはそのことに気づき、
「ふぁ……む……。……なん、だっけな……」
なぜ、自分がこんなところにいるのか? また、その疑惑に意識を持って行かれ……だが、今度はすぐに、
「っと、クソ……! 俺は――……ジャン……?」
今度こそ、ほんとうにイヴァンの目が覚めた。
イヴァンは、まだ痛みとシビレでうまく動かない手と足をこわばらせ、身を起こし、首を動かして……襲ってきた別の痛みで、うめく。
「くそ、階段……? なんで俺はこんなところで寝てんだ、クソ……!?」
身体が痛いわけだった。イヴァンは、自分が角度のきつい階段――やっとわかった、ここは店の、ビアンカ・ネーヴェの二階と三階の間にある階段、だ。そのど真ん中に、自分は落っことしたハンカチみたいな有り様で引っかかって、いた。
……たぶん、何かのはずみで腰を下ろし、座って――そのまま寝落ちした、そう物語っているような姿勢、そして階段の角で傷めつけられた節々の痛み。
これで、こんなになるまで目が覚めなかったということは……。
「ファック、どんだけ酔ってたんだ俺は……飲み過ぎ……」
そこで、また思い出してハッとする。
そうだった――
「ジャン……。あいつが――」
思い出した。ジャンが、ジャンカルロが……そうだった。
この因業爺の店を貸し切って、あのお疲れさんのバカども、それと、ジャンカルロで……五人で、身内の飲み会をしたんだった。ひさびさの身内だけのオフで、どいつもこいつもハメを外して、とくにジャンは飲み過ぎて、テーブルで寝ちまって……。
それで、俺は――
「……。なんだったっけな、なんで階段……」
イヴァンは階段の中ほどで、危なっかしい寝返りらしきものをうってなんとか座る形にもっていく。角にぶつけた肘と腕が、まだシビレて感覚がない。
その感覚のない腕が、何かに引っかかった。腕と、下半身が……動かない。
「……? な……う、うわ」
この感覚……そう、幽霊の夢を見てしまったとかに、身体が言うことを聞かない、それと同じ――イヴァンはまだ動く首と、顔に汗をにじませ、動いて、そして。
「……あ。……クソ、なんで毛布――」
やっと、目がなれてきた。薄暗い常夜灯の下で、自分の有り様が目に映ってくる。
手と足が動かないはずだった。
イヴァンの身体は、階段の途中で――そういう虫か何かのように、毛布で体をすっぽり包んで器用に座り込んでいた。なぜ、自分がこんな有り様なのか、少し考え……。
「……!! し、しまった……」
ガクッと、ケツが階段の上を滑る。
そうだった……。
「毛布……。こいつを」
……しまった。
こいつを、ジャンに持って行ってやるんだった……!!
なのに、なんで俺はこんなしけた階段に引っかかって寝ぼけてる……!?
イヴァンは毛布をどかそうと……だが、まだシビレた腕が上手く動かない。ぶつけていなかった方の腕も、体の下になっていて血が巡っていなかったせいか、じんじんしてまともに言うことを聞かない。
「ファック、くそ……! な、なんで俺は――」
もぞもぞ、動く筋肉だけをむりやり動かすイヴァンの身体に、今まで忘れていた別の痛みが、ズン!と体軸を貫く衝撃になって走った。ぐお!とイヴァンの呻きが漏れる。
腰から頭の天辺までつらぬくような、尾てい骨あたりの鈍痛。
……思い出した。
イヴァンは自業の責め苦にあえぎながら、この有り様に落ちる寸前のことを思い出す。
――そうだった。
彼は、イヴァンは……ホールの椅子で、座ったまま寝落ちしてしまったジャンに掛けてやる寝具を探すために、ヴェスプッチの居間と寝室があるこの三階に上がって――ここの店の勝手を知っているのは自分だけだった――客間に使う部屋で、畳んであった毛布を見つけて、そいつを抱えて下の階に降りた……降りる、その途中、
「……くそ、なにやってんだ……俺は――あれっぽっちの、酒……」
思い出した。
イヴァンは自分が――ゴキゲンな毛布を抱えて、この階段を降りる途中で、脚を踏み違えてそのまま尻餅をついて……その間抜けさと痛みに罵声を吐いて、持った毛布をいったん退かそうとして、そこで…………イヴァンの記憶は途切れていた。
たぶん、そこで……酔っ払いすぎていたアタマが、イヴァンに“任務”ではなく“寝る”という指令を出してしまった……のだろう。そして、変なところで寝た身体の痛みと、自分のイビキで目が覚めた。
「シット……! ぶっ殺すぞ、クソが……ケツに45口径突っ込んで死ねクソ……」
イヴァンはたっぷり10秒、自分の間抜けさを罵倒し、少し酸欠気味になって呼吸をして――
「……くそ、戻らねえと」
早いこと、下の階に戻ってジャンの野郎にこいつを、毛布を持っていかねえと。
……というか、この俺があれしきの酒で落ちるとか……!!
……というか、俺はいったい、くそったれたここでどれくらい寝てた……?
……というか、他の連中はどうした、さっきから全然音が聞こえねえ……??
「なんだ……。あいつらも、全員寝ちまったか……?」
静か、だった。
この階段のすぐ下、短い廊下の向こうでは、身内のバカどもがしまりのない飲みを続けているはず、だった。が……。
ベルナルドと、ルキーノと、ジュリオも今日は居た。それに、ジャンのやつ。
……さっきまで、俺たちは他人や部下には絶対見せられないくらいの有り様で騒いでいた、はず、が…………今は、何の音もしていない。
「……。……おい、おいい……?」
ぼそっとつぶやいた自分の声が大きくひびいて、イヴァンはギクッと周囲を見回す。
……何の音もしない。耳の奥では、サーッという、いわゆる沈黙の音、自分の血流の音だけが響く。
「……あれ……?」
イヴァンは、次第に不安になってきていた。
「……さっきまで宴会、してて――あいつが、寝ちまって……しかたねえから……」
……あいつ?
……そう、ジャンだ、ジャンカルロ。仕方のねえ、あのバカ。俺たちのカポで、やっとそろって休みがとれたからって、ガキみたいにはしゃいで――どうやったか、ヴェスプッチのジジイを転がしてこの店を貸し切りにするっていう裏技を見せて……そう。
「俺たちに、めし、作って。……ゴキゲンで、バカみたいに飲んで、いっしょに――」
……そう、だよな?
「――…………」
イヴァンは、不安になってきていた。
「……宴会、今日だったよな。……さっきまで――」
ベルナルドも、ようやく部下に仕事を投げられるようになってき、たと。急に年食ったみたいなツラと声で笑って、今日の予定を開けて、そして馬鹿騒ぎしていた。
ルキーノも、居た、はずだ。ほかの街、とくにシカゴとの折衝で骨折ってたが、あっちの大物が選挙でかかりっきりになって少しヒマができたと。あのデカイ図体、背中を丸くしてタバコ吸って、親指立てていた。
ジュリオのやつも、そう、今日の宴会をすごく楽しみにして、お誕生日会のガキみたいにソワソワしていやがった、はずだ。コロンビアのビジネスに、やっと専門の商会をねじ込むことが出来てあいつはしばらく、デイバン住まいだと、俺にこの店の使い勝手を聞いてきていた。
その、はず、だ……それが、今日、今夜。ついさっき、まで――
「……ジャン……?」
あのバカ、手間がかかってしょうがねえ、と……。
この店を会場にするっていうから、この俺がちゃんと見張って仕切らねえと、下手に粗相があったらあとであのジジイ、ヴェスプッチにまとめて殺されるから、俺はNYで顔を出すはずだった鉄道屋の総会を棒に振って、それで2万ぐらい損するが仕方ねえな、と思って今夜……。……今夜、だよな…………。
「――…………」
何の、音もしなかった。
さっきまで、馬鹿騒ぎしていたはずなのに――
「まさか……」
俺が寝ているあいだに、あいつら、おひらきにして帰っちまったのか……?
俺だけシカトしておいて行って、あとで笑うつもりで……?
……いや、それはない。
……ジャンのやつが、俺だけおいて行ったりするはずが、ない。
……じゃあ、なんで俺はひとりでいる……?
「おい……」
自分の声だけが、暗い階段を転がって、すぐ消える。
……もしかしたら――誰も居ないところで、俺は一人で酔っ払って、バカみたいに転がって、そうして、一人で目が覚めて…………。
「おれだけ、か…………? おい……」
今度は、まともに声にならなかった。
じわり、と。夜の路地裏に水がこぼれたみたいに、イヴァンの腹の奥に不安が、広がる。その気分は、孤独という悪臭とセットで広がって、いつもなら精力と活気の塊だったイヴァンを、その身体と意思を、溝に打ち捨てられたスポンジのように汚染してゆく。
「……くそ……」
眠りの残滓で、ネバつくような目蓋をこじって、見る、が……。
薄暗いこの階段の下は、暗く、そこからは何の音もしてこなかった。
階段の突き当たりにあるはずの、そこにも常夜灯があるはずの廊下も、見えない。
この階段は、薄闇の中を下って……消失点が見えない闇の中まで続いていて……。
……自分は、地下の底、闇のはてまで続く階段のただ中に、一人、一人残って……。
……ああ、そうだ。宴会は、終わったんだったな。
…………そうだ。わかっていたじゃないか。
…………これが世界だ。こんなもんだ。わかってたさ。泣くほどのこっちゃねえ…………。
「……! く、くそ……!」
イヴァンは、ぶん!と頭を振ってバカな弱気を振り払う。
……マジで酔っ払ってる。飲み過ぎた。
……セーブしながら飲んでたはずなのに。ハメを外しちまったか……。
……ジャンたちが、あいつらがチャンポンで飲みまくってたから、俺はそいつを横からみて、あとで潰れたあいつらを笑って、カウチと客間に沈めてやって、朝になったら戻ってきたあのジジイに笑いながら肩をすくめてみせる、予定だったのに。
「……。行かねえと――」
下の階に降りて、あいつらのところに行こう。
そうすりゃ、きっと全員そろって潰れてるあいつらが、いる。はずだ。
……バカな想像で、自前のモヤモヤで潰れてるなんて、馬鹿らしい。
イヴァンは、数回、呼吸して――背骨まで染み込んでいた陰鬱な気分を踏みにじり、そうして……血が流れて、シビレから痛みに変わりつつある手で毛布を、つかむ。
「……っと。汚れちまったナ、くそ。新しいの取って――」
この店は馴染みの女中さんが毎日、掃除しているが、それでも土足で行き来する廊下でイヴァンを包んでいた毛布には、砂っぽいホコリ汚れが筋になってついてしまっていた。
先に、もう一度二階に戻って、別の毛布を……。
イヴァンが、まだこわばっている首をねじ曲げ、上を見ようとしたとき、だった。
creak...
「……? ……う、うわ!?」
ギッ、という軋みがひびいて――突然に響いて、イヴァンをぎょっとさせた。
上に向けたまま……イヴァンの首が、その顔が強張る。
「…………!?」
幽霊――最初に思ったのは、それだった。
この薄暗がりの中……イヴァンの視野に、突然に入り込んできたそれは、足――
1セットの革靴と、その上に伸びるスラックス。男の、脚。
それが、階段を軋ませ、革靴の底の鋲の靴音をさせて、ゆっくり、一段。
「……な――……。あ、おま……?」
また、一段。一足づつ、その革靴の足は階段を降りて、来る。
幽霊……違う。この靴には見覚えがある。
また、一段。暗い照明の下、なぜか足元しか見えないその男の影が、姿が降りてくる。
この靴は……そうだ、思い出した。パッと見てわからないとか、どうかしてる。
「……ジャン、おま、え――」
この靴は、そう。ジャンの靴のうちの、ひとつで……。自分で車を運転しないあのタコの靴で、粋につま先が尖っていて――チップのところが翼みたいになってる、お気に入りのやつで……そうだ、こいつが汚れるのも構わずに、店の厨房でゴソゴソしてて……。
「……おい、ジャン、おま…………。あ、ああ。上の部屋で、寝てたのかよクソ」
イヴァンの口から、ひどく、ホッとしたような痛罵が漏れる。
この靴、そして仕立てのスラックス。それにこの足音は、間違えようがない。
ジャンが、ジャンカルロが階段を下って、来ていた。
stamp-stamp...
また足音、そして、もう一段。
階段に引っかかっているような有り様のイヴァンの前に、その粋な出で立ちの男の足が降りて、そしてすぐ近くまで――
「……お、起きたのかよ。フン……。……ハハッ、俺もちょと飲み過ぎたぜ」
「…………」
また、足音。その靴は、イヴァンのすぐ近く、階段で転がっているイヴァンの顔のすぐ近くで――その足を、止めた。イヴァンは、無理やり首をねじ曲げ、上の方を見る。
「ハ、ハハ。……おまえが寝ゲロしてんじゃねーかと思って、見に来た、んだよ……くそ、べ、べつにここで待ってたわけじゃ、ねえ」
「…………」
ひどくバツの悪い言い訳しか出なかった。自分に45口径を向けたくなったイヴァンに、だが……その頭上の人影は、ジャンは、何も言わなかった。
「……な、なんだよ? クソ、ファック……! なん、だよお……」
「…………」
イヴァンは、相手の顔を見て、いつもの様に罵倒の一つでも、と――だが。
光の具合か、照明が変な場所にあるせいか……そこにいる男、ジャンカルロの顔は、ヘソから上くらいは、イヴァンが目をしばたかせても、よく見えなかった。
「……く……?」
闇の中に溶けているような、いや、照明が逆光になっているような……あのお菓子みたいな金色の髪が、未来の火星のランプみたいに光っているのは見えていたが――ジャンの顔は、はっきり見えない。
イヴァンはまた――今度は、何か……不安とは違う感覚に、ゾクッとする。
「ジャン、おまえ……?」
「…………」
何も、答えはなかった。イヴァンは、バリバリに乾いてしまっている口と、喉で、無理やりつばを飲む動きをさせて――言った。
「寝てた、のか? 上で……」
「…………」
「そ、その……俺は、ここで――……! ああ、悪かったよ! 寝ちまってたよ!」
「…………」
「……な、なあ。ジャン。…………怒ってる、のか……」
自分でもぎょっとするほど、情けない声しか出なかった。
だが、そのイヴァンに――
「……。……いや――」
イタリア語の、ノ、が混じったような、笑うようないつもの声、が降ってきた。
……ああ……!!
イヴァンは、身体が紙袋みたいにクシャケそうになるほど、深く息を吐いた。
「……フン。……は、ハハッ。……つか、今日は飲み過ぎたな。はしゃぎすぎだなあ」
「……ああ――」
小さく笑って、息を漏らすような、シ、を混ぜたようなそのささやき。
ジャンのその声に、イヴァンは階段の椅子の上でケツをずらし……そして、自分がまだ、あのクソッタレた毛布に捕縛されてしまっているのに、気づいてファックを吐く。
「……クソッ、このクソ毛布、あとでガレージのウエスにしてやる、くそ」
「…………」
また、ジャンが笑ったようだった。
……なんだかバツが悪い。あいつらのところに戻ろう。
イヴァンは、もぞもぞ動いて――階段の上で、靴を履いた足で自分が着地する段を探り、
「ちょっと寝たんなら、気分はわるくねえか? どうする、ジャンよう」
「…………」
「戻って、あのバカどもと続きするか、それとも今日はもうおひらきか――」
イヴァンが毛布をはねのけようとしたとき、だった。
stamp...stamp...
「……な――!?」
また、ジャンの足音がした――イヴァンが、ハッとした時には――ジャンカルロの靴は、粋なラインが走るスラックスが、イヴァンの顔の真横まで降りてきていた。
「うお、お……おい、このタコ、いきなり……俺の手、踏むんじゃねえ、ぞ」
「……。…………」
イヴァンの照れたような罵声に、ジャンカルロが――暗い中にあるジャンカルロの口が、なにか笑うような吐息をもらしていた。
「な……? なんだ、よお、この」
「……。……ハ……」
小さく、ジャンカルロが笑った。その吐息といっしょに、革靴が動いて、今度は――足音を立てず、静かに――イヴァンをくるんでいる毛布の端を、踏んでいた。
「な……。先に、降りるのかよ……?」
「――……」
今度は、何も答えなかった。ジャンは、また少し不安になったイヴァンの横で、彼をもう一段不安にするほどの時間、止まってから……また足を動かす。
「おい……?」
ジャンが、階段を降りる――そう思ったイヴァンの横で、スラックスと革靴は動いて……そして、ファスナーのあたりがちょうどイヴァンの顔の横を通って、なぜか彼をぎょっとさせ、そして。
「ん? な……? な、おい……」
また、ジャンの足が動いて――今度は、一歩、別の場所に踏み出して、その脚は別の段にある毛布の端を、踏んでいた。
「な……。お、おま……ジャン、おまえ――」
「……」
「行くんじゃ、ないのかよ……」
何だ、くそ……?? なんで、俺はこんな泣きそうな声を出してる!?
イヴァンが、次の言葉が出てこずに、開いた口をまた閉じ……た。とき、だった。
「……!?」
不意に、本当に突然に――ふわりと、ゆっくりだが本当に突然に、暗闇の中にあったはずのジャンカルロの身体が、よく見えていなかった彼の上半身が、袖をまくったシャツを着た白い上半身が、あの真夏の花のような金色の髪が、イヴァンの上に降ってきていた。
「う、うわ……!? お、おま!? あぶね――」
最初、ジャンが毛布を踏んで滑って、足を踏み外して転んだのかとイヴァンは思った。
――だが、違う。違った。
「……? ジャン……」
ジャンに踏まれた毛布はそのままだった。そこは、ピンで止められたようで――別の場所も、ジャンがイヴァンの身体に覆いかぶさるように身をかがめた、その両の手で抑えられていた。
「……な……なあ、おい、おまえ……なん、だよ。まさか、上に戻ンのか……?」
「――……」
イヴァンは、自分がボーイスカウト1年生のテントのような有り様にされているのに気づいて、そして……目の前に、ジャンカルロの顔があって自分を見ているのに気づいて、気恥ずかしくなって饒舌に、なる。
「……行くんなら、いいぜ? まだ寝るんなら、一人で――お、俺は、その」
イヴァンがそう言って――
……クソ、ファック、なんだ……。あのバカの、ジャンの顔がよく見えない。
……まだ目が寝ぼけてるのか……。こっちを見ているジャンの顔が、髪のせいで影になっているのか、よく見えない。
……いや、俺が顔を背けてるのか……。あいつの顔を、まともに見られなくて――
…………。なんでだろう、なんであいつを見ると、こんな気分に――
そのイヴァンに、声が。ジャンカルロの声が、した。
「――心配すんな。大丈夫だ」
「!? ……!! な……ジャン……? おまえ――」
急に、どこかから響いてきたようなジャンの声に、大きくはないが脳幹の奥まで響いたような、1ブロック向こうの鐘楼のベルの音のような、その凛としたジャンの声に、
「……お……おま、え……。な、なんだ、よお……」
やばい。なんでだ、顔が……熱い、なんで泣きそうになってる、俺――
つい、顔をそむけてしまう。そのイヴァンに、
「……っ、わ……! なんだ、よ、この……」
ふいに、冷たく、そして温かな感触がイヴァンの耳のあたりを撫でて――ジャンの指が彼を驚かせ、そして。気づくと、イヴァンの顔は、ジャンの顔が水面に写したそれのようになって、ふたつの顔はまっすぐに見つめ合う形になっていた。
「……。…………」
ジャンカルロが声になっていない吐息で、笑う。
「くそ、この……! バカにして、んの……。う、わ……?」
また、イヴァンの髪にジャンの手指が、触れた。
今度は、両の手がイヴァンの短い髪をくしけずるように――気づくと、ジャンの身体と顔は、その熱が毛布と空間を貫通してイヴァンに刺さるほど近くなっていた。
階段の段差に、足を、そして肘をおいて毛布を抑えたジャンは、そういうクモのように毛布の網でイヴァンを階段に抑えこみ――彼を食らうように、その上にのしかかって。そして。
――ジャンの口が、なにか邪なものを感じるほどに笑っているのがイヴァンの目に映る。
「く、くそ……。な、なんだよ、どけよ……! 行くんじゃ、ないのかよおまえ!?」
「…………」
体重と毛布で器用にイヴァンを虜にしたジャンは、息を吐き、
「く……っ! や、やめ、くすぐって……うわ……!」
「……フ……」
息が――ジャンカルロの唇から漏れたそれが、ありえないくらい近くてイヴァンの身体を硬直させる。耳と、生え際の産毛をなでてゆく、クリームのような吐息だった。
「く、くそ……ファック、てめ……! 冗談――」
イヴァンは、虜にされた毛布の中で身をよじる、が……。階段の段差と、ジャンの身体の間で身体が上手く動かない。
……いや――
本当なら、イヴァンの腕力ならジャンを退かせるどころか、その身体を階段の下まで突き飛ばせるはず、だが……イヴァンは、囚われのまま、おぼつかない言葉だけで抵抗することしかできない。出来ずに、いた。
「……ふ、ふざけてん、だろ……? この……! バカにしやがって――」
「…………」
「……ッ、わ……! ち、近え、って……わ……!」
ジャンカルロの顔が、また一段、イヴァンの目に近づいて……イヴァンは、こらえきれず顔を背けてしまう。そのイヴァンに、背けた彼の耳元に、
「……ハ、は…………」
「……っ……! や、やめ……」
からかうようなジャンの笑みが、息といっしょに、からみ、刺さる。耳元にそれを感じたイヴァンは、そこの皮膚から背骨の奥まで、固いものを殴ってしまったときのような痺れに襲われる。その感触、感覚が――快感のそれだと、イヴァンが気づいた時には、
「…………」
「……う……ッ、あ……」
ぬち、っと。小さいが淫美な音が、イヴァンの耳に注ぎ込まれる。その音は、湿った芯のあるやわらかさ――ついばむようなキスの感触になって、イヴァンの耳に、首筋にキスをする。
「……く、ぁ……ッ、って……! ば、ばっかやろ……! ヘンな声でたじゃ、ねえか」
「…………」
――こいつ上手いな。……いままでのは何だったんだクソ。あいつらやる気ねえな。
――……!! いや違う、クソ……!!
イヴァンは、ジャンの下で子供のように首をふる。
「だッ……だから、やめ……! ぬ……くあ、くすぐ、っ、く……」
最初は、ためらうようなキス。それが、耳元と首筋、あごのあたりを行き来し――それが、一旦離れ、イヴァンが??と思った次には――今度は、噛むような激しいキスが耳朶をなぶって、今度は赤面するほどの淫らな音のキスでイヴァンをまた硬直させる。
「だ、だあ……! だから、やめ……おま、俺……おまえも、その、おとk……」
最後まで、言えなかった。
チッと、小さな舌打ちのような音がして。イヴァンの耳に、そういう邪悪なファンタジーの生き物のようなジャンの舌が、キスが襲ったあとのイヴァンの肌の赤みに這ってゆく。
「く……っ……! てめ、いい加減に……う、ぅ……は、はぁ……ッ」
イヴァンの息が、自分でも制御できないほど止まっていて――そして、破裂する。息を荒くしたイヴァンは、さっきまでのアルコールの残滓よりはるかに強いこの感覚に、次第に意識を持っていかれる自分を感じ、
「は、はあ……っ! な、ん……だよ、ジャン……まさか……」
「…………」
「あ……く、くぅ……! ジャン、おまえも……まさか――」
――俺のこと…………。
それを、イヴァンの脳幹の奥が言葉にして、それが唇を動かす――
だが、それよりジャンのほうが、先だった。
「……ッ、ン…………」
「……おれ、の――……!? く、ふ……!?」
ジャンの指が、スウッとイヴァンの頑丈なアゴを捉えていた。
ぎょっとして、再び真上のジャンを見つめたイヴァンに、その瞳にジャンカルロの金色の髪が、そして夜空の月のように細くてやわらかな金色の瞳が、映り――そして、ハンカチが落ちるのと同じ速度で、ジャンの唇がそういう熟れた果実のようにわずかに開きながら降り、イヴァンの瞳に、頬に、そして唇にキスをし、ふさいでいた。
「……ン……ふ…………」
「……! ……ぬ、くぅ……う……ッ、ふぁ……」
「…………」
イヴァンの頭の中で、バチッと何かが限界を超えた音が、した。だがそれは何かを爆発させることなく――暴れていたイヴァンの腕が、油圧が抜けたようにフワッと重力に従い、びっくりしていた目が、何かを納得したかのようにゆっくり細くなる。
「…………」
「……く、ふ……ぁ、かは……ッ!! は、はぁ……!!」
先に、ジャンの方から離れて――イヴァンに呼吸を取り戻させる。指一本分だけ離れたジャンカルロの顔に、イヴァンは荒い息を吐きかけながら――息をするたび、口に流れ込んでくる甘い感覚の残滓に、ジャンカルロのそれを口の中でためる。
「……ッ……ハ、ァ……! く……」
ジャンの口が、キスが甘い――童貞的な比喩でなく、何かの香りが……。
イヴァンはぼうっとしてきた頭でそんなことを考え……そしてそのフレーバーが、ハッカのガムのそれだと――ああ、何日前だったか。自前のを切らしていたジャンに、イヴァンが自分の齧りかけのガムを渡した……そのガムの、甘味と匂い……。
その思考に逃避していたイヴァンに、またキスが重なり――
「……クソ……この、なんで…………。黙って、すんなよタコ……」
「……ン…………」
「笑ってんじゃね、え。ファック……くそ、これで俺もヘンタイ――」
「……。……ふ……」
「……う……! は、ぁ……。…………ン……。……ハァ……」
今度は、ゆっくりと――舌で探るようなキスが降ってきて、観念したようなイヴァンの目が閉じる。唇を舌で撫でられ、小さく歯で噛まれて――だらしなく開けた口に、互いの鼻を交差させるようにして唇が覆いかぶさり、また離れて鼻が交差し、それを数度返して……そして、ネジの山があったかのように、重なったキスはそこでにじるように動き、その奥で二つの唇が唾液を絡め合っていた。
「……ぅ……ヌ、ッ……。……ァ……」
絡めた舌の、付け根の下側をイヴァンの舌先で穿られ、唾液腺を溢れさせたジャンカルロが咽るような息を吐き、その快楽に溺れてだらしなくあごをゆるめていた。
「……ッ、フ……ゥ……」
「……は、ッ、ああ…………。ふ、フン、ふふ、どうしたよ、チカラ、ぬけてんぜ」
「……ン…………」
「こ、この……エロいつら、しやがって、よう……。て、てか……」
イヴァンは、とろけたような瞳と顔のジャンカルロから、また顔を背けてしまって、
「もう、そこどけよ……わかった、からよ、その……。動けねえ――」
「…………」
「お。おい……退け、って……。……って、わ……!?」
毛布の下でもぞもぞ抵抗したイヴァン、その上で……じわっと、ジャンカルロの身体が動いていた。斜めになったイヴァンの身体、ちょうどその太腿の上で――
「……ン……ッ、ハ…………」
「お……おま、おま……! な、コーフンしてやが、ん……」
ジャンの背中と、乱れた襟元からのぞく喉が、小さくのけぞっていた。そこから続く腰の線が、ズボンが、ゆっくりと動いて――イヴァンを包む毛布に染み透り、埋まろうとするかのようにゆっくりと重なって、だが静かだが深く、何度も、重ねて抽迭されていた。
「……わ、わ……! この、なにサカって……っ!? う、うく……」
「…………」
イヴァンの足に擦りつけるようにして……ジャンカルロは、ズボンの奥、ベルトの金具が邪魔になるほどまで固く反り返ったペニスを、イヴァンがぎょっとするほどの勃起を、ズボンと毛布を貫通する感触でこすりつけ――何か切ないような、だがからかうような吐息を吐き続けていた。
キモイ、と言ってやろうかと思ったイヴァン、だったが――
「くそ……! フルボッキしやがって、この……エロいな、この……エロカポ……」
実際には、子供の罵倒のようなしまりのないそれしか出ず、顔は照れとは別の感情でまた一段、赤くなる。そのイヴァンに、
「…………。……フ……」
「わ、笑うな……! ぶっころ……ゥ……う……!」
ジャンは、水面の底で揺れる草のように腰を揺らめかせ……そのまま、片方の足を沈め、毛布の下でこわばっていたイヴァンの脚を割ってその奥に、階段の床板よりも固くなっていたイヴァンのそこに、じわっと体重と体温をかけてゆく。
「……う、ぅ……! クソ、こん、なん……勃つにきまってんだろ、くそ……」
「……ゥ……ン……」
イヴァンの声に、何か満足気にジャンは喉を鳴らし、溜まっていたつばを飲む。その間も、ジャンカルロの腰と下半身は、毛布の感触を貫いてくるお互いの興奮を、固さと熱さをむさぼって波打っていた。
「……ファック、くそ……。な……。な、なあ…………」
「……?……」
「そ、その…………。これ、どうす……ん……ッ……」
イヴァンは、ジャンカルロの脚の圧力と摩擦に、ビクッと腰を震わせ――そして、言葉をなにか探して……そして途中でそれを放棄して、
「……な、なんでもねえ……! も、いい、から……どけ、よ――」
「……。……ハ……」
「……う、ぅお……。な、なんだ――」
ふわ、とジャンカルロの体重が、動く。
不意に身体の片側、左腕のほうの縛めをとかれたイヴァンが――自分の言葉を後悔して声を漏らした、そこに。
「…………」
ジャンカルロの手が動いて、毛布を退かせていた。イヴァンがハッとした時には――ジャンの体重と愛撫で抑えられていた自分の身体に、腰のあたりに温かな手の感触が滑って、いた。
「……ちょ、ま……! ジャ、ン、おい……って」
「……ぉ……」
からかうようなジャンの声が小さく、漏れて――その彼の片手は、自分のそれを外す時のような手際でイヴァンのズボンの前を襲っていた。
「……こ、この……! ま、ま……それは、ま……まて、って!」
「――……」
何の返事も、なかった。ゆっくり、とだが――その段階を楽しむように、ジャンの手はベルトの掛け金を外し、ボタンを探って、いた。
動こうとして、ガタッと階段に肘を打ったイヴァンが気づくと……。
「…………」
ジャンカルロの顔が、細めた、とろけたような瞳が、身を起こしたイヴァンの顔を吐息の距離で見つめていて――ハッとしたイヴァンの唇に、あごと喉に、ジャンのキスがついばむようにして重なっていた。
「う……! じゃ……ジャン……」
そのあいだも、別の生き物のようにジャンの片手は動いて――イヴァンのズボンが伝統のボタン締めなのに気づいて、それを一個づつ外してゆく。
そして、そのボタンを上の二つだけ外して、
「……ッ、う、わ……。くそ……痛、え…………」
「…………」
オーバーレブした快感がイヴァンの歯を食いしばらせる。痛みと誤認するような、快楽だった。ジャンカルロの手が、ズボンの隙間から飛び出すような弾性のペニスに、下着の生地を裂こうとするような勃起に触れて……最初は、ためらうように――だがそれはフェイクで、すぐにジャンの手は自分のそれを自慰するようにして、イヴァンの勃起を音がするほどの勢いで上下にもて遊ぶ。
「……ッ、ン……」
「は……! う、ぁ……く、っ……! てめ、強い、って……」
「…………」
「……ば、ばっかやろ……、出…………。ち、違え! この……!」
イヴァンは、下着ごしの刺激に、自慰の手つきに――ビクッと腰骨の奥から身体を固くし、そして火傷しそうな息を吐いて、そしてやっと自由になっている自分の片手に気づいて、
「この……! お前ばっかり、好き放……だい……。……な――」
「……フ、ふ…………」
イヴァンが、責めを続けるジャンの手をつかむと――ジャンの手は、急にフワッと力を抜き……今度は、パン生地のようなやわらかさでじわっとイヴァンのペニスを、包む。
その、まったく感覚の違う手の快感にイヴァンは鼻の奥から息を漏らし、
「……おま……。それ、なん……?」
そして、やっと気づく。
「………………」
ジャンは、ジャンカルロは――いつの間にか、イヴァンの勃起を毛布越しに透視するように、階段に肘をついて身を沈めていたジャンは――
「フ…………」
口に、何かをくわえていた。四角い、何かのパック。歯で噛んだそれを、ジャンはイヴァンを手淫していた手を離して、まだその熱と匂いが残るような手指でそれを摘んで、ピッと裂いていた。そこから現れた、ゼリービーンズの“あたり”よりも鮮やかなピンク色をした、コンドームのリングに――
「……。……ンッ…………」
このときは、口いっぱいに溜まっていたつばを飲んでイヴァンは喉を鳴らした。
その彼の身体から、いつの間にか縛めが全て消えていた。
毛布がめくられ……薄暗さの中で、滑稽なほどに反り返り、下着の下で大きく勃起していたイヴァンのそれが露わにされる。
「……ん、フー…………」
ジャンは、強い酒を飲んだ時のような息を吐き、先端が濡れたその下着の頂点を指で、なぶる。その快感にイヴァンが歯を食いしばるのと同時に――イヴァンの顔に、罪深いピンクのリングを咥えたままのジャンカルロの顔が、せまった。
「わ……。な、な……なん……」
「――…………」
「……。わ、わかった、っての。……クソ、わかってる、っての」
キスで渡されそうだったそのゴムを、イヴァンは怒ったような手つきでひったくり、そして……。ジャンの顔を、そして痛いほどの勃起をしたままの自分を、見る。
「な、なあ……。あの、さあ」
「…………」
「その、ここ、か……? ここで――」
「…………」
「……! わ、わかった、っての……! くそ……」
イヴァンはゴムを摘んだまま、もぞもぞと腰を動かし、ズボンを緩める。
「……。……~」
そのイヴァンを、ジャンカルロは――
「……~」
ジャンは、両の手指に顔をのせるようにして――パンケーキの焼き上がりでも待つような顔で、恋人がそのペニスにゴムを付けるのを見、鼻からリズミカルに息を吐いていた。
「……ば……ばっかやろ、あんま見るな……く……」
「……」
「……く……。ファック、ゴムがちいせえぞ、これ……」
「……~」
カチャカチャとベルトの金具が鳴り、イヴァンが腰を浮かすと――ズボンといっしょに降ろされた下着の奥から、湯気を出していそうな勃起が跳ね上がって、もう少しでイヴァンのシャツに先端がついて、先走りの粘液で汚しそうになった。
「……は、ぁ……! すげえ、なんか――」
「ン…………」
ゼリーなしでもゴムが巻き付きそうなほど、イヴァンの怒張は透明な粘液をにじませていた。その熱さに、ジャンカルロはネチっと舌なめずりをして――――――


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